大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成6年(行ケ)242号 判決

神奈川県川崎市幸区堀川町72番地

原告

株式会社 東芝

同代表者代表取締役

佐藤文夫

同訴訟代理人弁理士

鈴江武彦

村松貞男

勝村紘

布施田勝正

山下一

森定奈美

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 清川佑二

同指定代理人

左村義弘

及川泰嘉

湯原忠男

関口博

主文

特許庁が平成4年審判第4908号事件について平成6年8月11日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

主文と同旨の判決

2  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和59年6月18日、名称を「半導体基板の接合方法」とする発明について特許出願(特願昭59-124683号)したが、平成4年1月23日拒絶査定を受けたので、同年3月26日審判を請求し、平成4年審判第4908号事件として審理されたが、平成6年8月11日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年9月28日原告に送達された。

2  特許請求の範囲第1項及び第2項記載の発明の要旨

(1)  二枚の半導体基板の各接合面をそれぞれ鏡面研磨し、各接合面の酸化膜を除去した後、水洗、乾燥して、これらの接合面を実質的に異物の介在しない条件下で直接密着させて半導体基板を加圧することなく200℃以上の温度で熱処理することを特徴とする半導体基板の接合方法。

(2)  二枚の半導体基板の各接合面をそれぞれ鏡面研磨し、各接合面の弗酸処理した後、水洗、乾燥して、これらの接合面を実質的に異物の介在しない条件下で直接密着させて半導体基板を加圧することなく200℃以上の温度で熱処理することを特徴とする半導体基板の接合方法。

3  審決の理由の要点

(1)  本願の特許請求の範囲第1項及び第2項の発明(以下併せて「本願発明」という。)の要旨は前項記載のとおりである。

(2)  一方、特公昭37-114号公報(以下「引用例」という。)には、導電型の異なる2個のゲルマニウム片(二枚の半導体基板)の表面をできるだけ平らにし、かつ腐食を行い、弾性加圧装置により、ある圧力で圧し付けて、加熱容器に入れて接合するようにした半導体基板接合方法、が記載されている。

(3)  本願発明と引用例の技術内容とを対比すると、引用例の技術内容において、2個のゲルマニウム片を圧し付ける前に水洗、乾燥は当然行っていることであり、圧し付けるに際して異物の介在しない条件下で行うことも当然であり、また引用例の技術内容において、弾性加圧装置によるある圧力による圧し付けは、「加圧することなく密着すること」に相当するから(「加圧」とは、例えば原査定時に引用された特公昭49-26455号公報における「150kg/cm2」に相当する値を含むような圧力をいうものと認められる)、両者は「二枚の半導体基板の各接合面をそれぞれ研磨し、各接合面の表面の一部を処理した後、水洗、乾燥して、これらの接合面を実質的に異物の介在しない条件下で直接密着させて半導体基板を加圧することなく、熱処理することを特徴とする半導体基板の接合方法。」という点で一致する。しかしながら、両者は、以下の各点で相違する。

〈1〉 本願発明が半導体基板接合表面を鏡面研磨するものであるのに対し、引用例の技術内容は、「できるだけ平らにする」と述べているだけである。(第1相違点)

〈2〉 本願発明が基板接合面の直接密着の前に、酸化膜の除去または弗酸処理を行うものであるのに対し、引用例の技術内容は単に基板接合表面を「腐食する」と表現しているだけである。(第2相違点)

〈3〉 本願発明が基板密着の後、200℃以上の温度で熱処理するものであるのに対し、引用例の技術内容は、熱処理の温度が示されていない。(第3相違点)

(4)  上記各相違点について以下検討を行う。

〈1〉 第1相違点について

鏡面研磨方法は、板の表面を最も平らにする方法として良く知られている慣用技術である。従って、引用例の技術内容において、「できるだけ平らにする」方法に、鏡面研磨方法を採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。

〈2〉 第2相違点について

引用例の技術内容において、2つの基板を接合する前にそれらの表面を「腐食する」目的は、その表面の有害な物質を除去することであることは、明白である。そのような有害な物質として、自然酸化膜等はもっとも知られている物である。また、半導体基板表面を腐食する方法として、弗酸を用いることも良く知られている慣用技術である。従って、引用例の技術内容における「腐食する」ことについて、「酸化膜の除去」及び「弗酸の使用」は、当該技術分野に携わっている者であれば容易に想起できることである。

〈3〉 第3相違点について

引用例に図示されている「加熱容器4」の温度については明示はないが、しかしながら引用例には「・・・個別の半導体結晶を互いに単結晶化することは接触面における結晶面の一方もしくは両者を融解することによって行うのではなく個体結晶面間の接触面において生ずる拡散過程によって達成する。この拡散過程において格子成分が接触面に隣る一つの結晶片の部分から他方の結晶部分に移動することが重要である。格子の中から抜け出すエネルギーは熱運動から即ち格子の熱振動から得なければならない。」(1頁左欄29行ないし右欄3行)という記載があり、この記載からすると、引用例の技術内容の「加熱容器」中の温度は、当然200℃を越えるものであることが認められる。従って本願発明と引用例の技術内容とは、熱処理を行う温度の点において実質的な差異はない。

(5)  以上のとおりであるから、本願発明は引用例の技術内容から当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

4  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点(1)、(2)は認める。同(3)のうち、「引用例の技術内容において、2個のゲルマニウム片を圧し付ける前に水洗、乾燥は当然行っていることであり、圧し付けるに際して異物の介在しない条件下で行うことも当然であり、」との部分、及び、本願発明と引用例の技術内容との間に第1ないし第3相違点があることは認めるが、その余は争う。同(4)〈1〉、〈2〉は争う。同(4)〈3〉は認める。同(5)は争う。

審決は、本願発明及び引用例の技術内容を誤認して一致点の認定を誤り、かつ、第1相違点及び第2相違点についての判断を誤って、本願発明の進歩性を否定したものであるから、違法として取り消されるべきである。

(1)  一致点の認定の誤り(取消事由1)

〈1〉 審決は、本願発明と引用例の技術内容とを対比するに当たり、本願発明が「加圧することなく密着する」ものであることをその前提としている。

しかし、本願発明の特徴は「加熱時に加圧しない」点にあり、密着するときの加圧について特許請求の範囲には特に規定されていない。審決は、本願発明の「密着させて加圧することなく熱処理」を「加圧することなく密着」と誤認している。

また被告は、本願発明における「加圧することなく」について、「一定以上の圧力を加えることなく」という意味であると主張している。

しかし、本願発明の工程に従って二枚の半導体基板を直接密着させると、密着状態を維持するための加圧を必要としない接着強度が生じ、加圧することなく熱処理することができるのである。

一方、引用例のものは、圧力を加えることを条件としており、加熱時に圧力を加えなければ意図する特性を有する接合を得ることはできないものと判断される。

上記のとおり、審決が、本願発明における「密着させて半導体基板を加圧することなく熱処理する」を「加圧することなく密着する」と認定したことは誤りであり、この誤認に基づき、「加圧することなく密着する」の「加圧することなく」は引用例の「弾性加圧装置によるある圧力による圧し付け」に相当すると認定したことも明らかに誤りである。

したがって、本願発明と引用例の技術内容とが、「半導体基板を加圧することなく、熱処理する」点で一致する、とした審決の認定は誤りである。

〈2〉 被告は、原告主張の取消事由1に関連して、新たな相違点を設定し、その相違点は乙第4号証の周知技術から想到容易であると主張している。

被告主張の相違点が存することは認めるが、乙第4号証の周知技術は、半導体製造技術とは全く異なる技術分野であるブロックゲージの密着に関する技術であり、この技術を本願発明や引用例のような半導体製造技術への適用が容易であるとはいえない。さらに、乙第4号証におけるブロックゲージの「密着」は、ブロックゲージ間に油等の液体を介在させることにより吸着力を生じさせ「密着」を行うものであるが、このような現象が半導体基板同士の場合にも起こることは本願明細書2頁4行ないし9行に記載されている。すなわち、乙第4号証の技術は、接合面に液体という異物が介在しており、水洗、乾燥した後、接合面に実質的に異物が介在しない条件下で接触を行う本願発明とは根本的に異なる技術である。

また、乙第4号証により「密着」する技術が公知であるとしても、それを引用例の加圧に代えることは容易に予測できないし、仮に引用例において「密着」が可能だとしても、その後に加圧をしない熱処理を行うことを示唆する記載は、引用例及び乙第4号証には存しない。

(2)  第1相違点の判断の誤り(取消事由2)

引用例には、加圧しながら加熱する接合処理において「できるだけ平らにする」ことが示されているだけであるから、仮に引用例の「できるだけ平らにする」をミクロ的な表面の粗さを微細にするということであると解釈して、そのために鏡面研磨を使用したとしても、それによって本願発明のような加圧することなく熱処理することが容易に予測できるものではない。

したがって、第1相違点の判断は誤りである。

(3)  第2相違点の判断の誤り(取消事由3)

引用例における「腐蝕」とは、半導体表面を腐蝕し研磨による傷や欠陥を除去している可能性が高い。これに対して本願発明では弗酸によって酸化膜を除去しているが、弗酸は酸化膜は腐蝕するが半導体であるシリコンそのものはほとんど腐蝕しない。このような本願発明特有の酸化膜の除去については、引用例には何ら示唆する記載はない。

したがって、第2相違点の判断は誤りである。

第3  請求の原因に対する認否及び主張

1  請求の原因1ないし3は認める。同4は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。

2  主張

(1)  取消事由1について

〈1〉 「密着」という用語は、甲第8号証記載のような「くっ付いて離れなくなる」という意味ではなく、単に「ぴったり接する」という意味で用いられる場合も多い。そして、「密着」を「ぴったり接する」という意味であると理解する限りにおいて、本願発明における「直接密着させて半導体基板を加圧することなく」の「密着させて」の部分と「加圧することなく」の部分とは、原告主張のような別工程ではなく同一工程であり、また、実施に際して、密着を全く加圧することなく行うことは理論的に不可能な事項であるから、「加圧することなく」とは、「一定以上の圧力を加えることなく」というように理解すべきである。

したがって、一致点の認定に誤りはない。

〈2〉 仮に、「密着」が「くっ付いて離れなくなる」という意味に限定されるとすると、本願発明と引用例のものとの一致点は審決が認定したとおりのものではなくなるかも知れないが、以下述べるとおり、本願発明は依然として引用例の技術内容から当業者が容易に発明をすることができたものということができるから、審決の結論において誤りはない。

「密着」を「くっ付いて離れなくなる」という意味に理解した場合における本願発明と引用例のものとを比較すると、両者は、「二枚の半導体基板の各接合面をそれぞれ研磨し、各研磨面の表面の一部を処理した後、水洗、乾燥して、これらの接合面を実質的に異物の介在しない条件下で直接接触させて半導体基板を熱処理することを特徴とする半導体基板の接合方法。」という点で一致し、審決摘示の第1ないし第3相違点の他、本願発明が二枚の半導体基板の接触を「密着」によって行い、後の熱処理を全く加圧しないで行っているのに対し、引用例の場合は、単なる接触を行って、後の熱処理はある程度の加圧をしながら行っている、という新たな相違点が加わることになる。

しかし、乙第4号証に示されているように、研磨精度を格段に向上させた2つの物体の平らな面を、「くっ付いて離れなくなる」という意味での「密着」によって接着合体を行うことは周知であり、またそのような意味での密着の後では、加圧をせずに熱処理を行うことは当然の措置であるから、引用例のものにおいて、二枚の半導体基板の単なる接触と加圧を要する熱処理を行うことに代えて、密着を行った後に加圧をしないで熱処理を行う方法を採用することは、乙第4号証記載の周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得ることである。

(2)  取消事由2について

引用例には、材料表面を「できるだけ平らにする」ことが、「単なる接触」、即ち、本願発明に沿った文言を使用すれば「加圧をすることなく」という程度の微小な圧力によって、材料の接合を可能とすることと密接に関連することが示唆されているから、原告の主張は失当である。

(3)  取消事由3について

引用例の技術内容における半導体材料の接合原理は、格子成分の接触面を介しての拡散移動による互いの単結晶化によるものであるから、表面を平らにする工程の後に、腐食を行う目的が、自然酸化膜や不純物等の有害不要な物質の除去にあることは明らかである。また、弗酸使用が酸化膜除去を含めた半導体一般の表面処理に慣用されていることも明らかである。

第4  証拠関係

本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願発明の要旨)及び同3(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

そして、審決の理由の要点(2)(引用例の記載事項)、同(3)のうち、「引用例の技術内容において、2個のゲルマニウム片を圧し付ける前に水洗、乾燥は当然行っていることであり、圧し付けるに際して異物の介在しない条件下で行うことも当然であり、」との部分及び第1ないし第3相違点の認定、同(4)〈3〉(第3相違点の判断)についても、当事者間に争いがない。

2  そこで、取消事由1の当否について検討する。

(1)  審決における「引用例の技術内容において、弾性加圧装置によるある圧力による圧し付けは、『加圧することなく密着すること』に相当するから(『加圧』とは、例えば原査定時に引用された特公昭49-26455号公報における『150kg/cm2』に相当する値を含むような圧力をいうものと認められる)、両者(注 本願発明と引用例の技術内容)は、『二枚の半導体基板の各接合面をそれぞれ研磨し、各接合面の表面の一部を処理した後、水洗、乾燥して、これらの接合面を実質的に異物の介在しない条件下で直接密着させて半導体基板を加圧することなく、熱処理することを特徴とする半導体基板の接合方法。』という点で一致する。」(甲第1号証3頁13行ないし4頁6行)との説示、及び被告の主張によれば、審決は、本願発明の特許請求の範囲に記載されている「直接密着させて半導体基板を加圧することなく」を「加圧することなく密着すること」という意味に解し、また、「加圧することなく」という点については「一定以上の圧力を加えることなく」というように解し、これらを前提として上記のとおりの認定をしたものと認められる。

しかし、本願発明の特許請求の範囲には、「・・・接合面を実質的に異物の介在しない条件下で直接密着させて半導体基板を加圧することなく200℃以上の温度で熱処理すること・・・」と記載されているように、「加圧することなく」は「熱処理」との関係で記載されているのであって、「密着」との関係で規定されているわけではない。

さらに、本願明細書中の「本発明者等は、鏡面研磨されたシリコンウェーハの研磨面を酸化性の条件で親水性化処理した後、この研磨面同士を実質的に異物の介在しない清浄な雰囲気下で密着させることにより、強固な接合体が得られることを見出し、これを先に提案している。この場合、200℃以上の温度で熱処理すれば、より強固な接合体となることが明らかになっている。」(甲第2号証2頁10行ないし17行)との記載、及び本願発明の特許請求の範囲の記載によれば、本願発明の出願時においては、二枚の半導体基板を鏡面研磨し、親水性化処理して、異物の介在しない清浄な条件下で直接接触させると、外部からの加圧を必要としないで、接着強度のある接合が得られることが判明しており、本願発明はこの技術を採用しているものと認められる。

したがって、本願発明における、半導体基板を「加圧することなく」は、「外部から何ら圧力を加えることなく」と解するのが相当であり、「一定以上の圧力を加えることなく」というように解することは相当ではない。

ちなみに、本願出願後に発行されたものではあるが、「日経マイクロデバイス1988年3月号」(甲第8号証)には、原告の技術者による「ウエーハ張り合わせ技術」に関する論文が掲載されていて、その中に、「まず、鏡面研磨したウエーハの表面をH2O2-H2SO4溶液中で洗浄する。次に、ウエーハの表面に親水性を持たせ、室温の清浄な雰囲気で接触させる。この状態でも、3~5kg/cm2の接着強度がある。外部から加圧しなくてもよい。」と記載されていることが認められる。

他方、引用例の半導体基板接合方法は、二枚の半導体基板を弾性加圧装置により、ある圧力で圧し付けて、加熱容器に入れて接合するようにしたものである。

上記のとおりであるから、審決の一致点の認定のうち、「(二枚の半導体基板の各接合面を)密着させて半導体基板を加圧することなく、熱処理する」との部分は誤っているものといわざるを得ない。

(2)  原告主張の取消事由1に関連して、被告は、審決の一致点の認定に誤りがあるとしても、本願発明と引用例のものとは、「二枚の半導体基板の各接合面をそれぞれ研磨し、各研磨面の表面の一部を処理した後、水洗、乾燥して、これらの接合面を実質的に異物の介在しない条件下で直接接触させて半導体基板を熱処理することを特徴とする半導体基板の接合方法。」という点で一致し、審決摘示の第1ないし第3相違点の他、本願発明が二枚の半導体基板の接触を「密着」によって行い、後の熱処理を全く加圧しないで行っているのに対し、引用例の場合は、単なる接触を行って、後の熱処理はある程度の加圧をしながら行っている、という新たな相違点が加わることになるが、引用例のものにおいて、二枚の半導体基板の単なる接触と加圧を要する熱処理を行うことに代えて、密着を行った後に加圧をしないで熱処理を行う方法を採用することは、乙第4号証記載の周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得ることであるから、審決の結論において誤りはない旨主張する。

乙第4号証(「工場測定器講座〈8〉 ブロックゲージ」日刊工業新聞社 昭和37年10月25日発行)には、「ブロックゲージのもっとも重要な特性は密着(wringing)できることである。2個のブロックゲージの端面をきれいに拭いて、互に滑らせると強く吸いついて離れなくなる。この現象を密着といっている。・・・密着現象がどうして生じるかは、いまだに明瞭な定説はない。Whitworthは、よく仕上げた2枚の定盤が強く吸着し、また2面間に油を与えると吸着力がさらに強くなることを報告している。」(31頁)と記載されていることが認められる。

しかし、乙第4号証に記載の技術は、本願発明や引用例の半導体製造技術とは全く技術分野の異なるブロックゲージの密着に関するものであるうえ、乙第4号証に開示されている密着技術は、2個のブロックゲージを互いに滑らせたり、ブロックゲージ間に油等の液体を介在させたりすることによって密着を行うものであって(乙第4号証の上記記載の他、同頁の「Budgettは・・・密着力は主として中間の液体の凝集力であり、これに液体の表面張力や大気圧が加わるものと考えた。Roltは個体表面の分子力が液膜を通じて作用するものと考えていた。」との記載をも併せると、乙第4号証は主として、ブロックゲージ間に油等の液体を介在させることによって密着を行うことを教示しているものと認められる。)、水洗、乾燥した後、接合面に実質的に異物が介在しない条件下で接触を行う本願発明や引用例の技術とは異なるものである。

さらに、引用例のものは、それなりの技術的理由により加熱時に加圧しているのであるから、ブロックゲージの一時的な密着に関する乙第4号証の技術を引用例のものに採用したとしても、被告が主張するような、密着の後では加圧をせずに熱処理を行うことが当然の措置であるということにはならない。

したがって、被告の上記主張は採用できない。

(3)  以上のとおりであって、原告主張の取消事由1は理由があり、一致点の認定の誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、その余の取消事由について検討するまでもなく、審決は違法として取消しを免れない。

3  よって、原告の本訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例